読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

「耳をすませば」と「図書館の自由」

この話は何番煎じだ、というほど何年もの間ずーっと議論がされていますが。

司書課程を学んだ身として、改めて考えさせられることがありました。何かのご縁があってここをご覧いただいた皆様、少しの間お付き合いくださいね。

 

耳をすませば

皆様ご存知の通り、月島雫と天沢聖司の恋愛を描いたお話です。原作は漫画ですが、タイトルを聞いて皆さんが思い浮かべるのはスタジオジブリのアニメ映画が最も多いのではないでしょうか。

この作中で、雫と聖司を結びつけたキーアイテムとして、図書館の貸出カードが描かれます。

※ちなみに、2017/01/27の金曜ロードSHOW!放送時に「図書カード」というワードがTwitterのトレンドに入っていました。まあ意味が通じないこともないのですが、通常「図書カード」というと金券、「全国共通図書券」としての図書カードを指しますのでこの場合はやはり「(図書館の)貸出カード」と呼ぶのが最適でないかと思います。

 

図書館の自由に関する宣言

 「図書館戦争」をご覧になった方の中には、内容はうろ覚えだけど聞いたことがある!という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

思想善導機関と化した戦前の反省を元に、1954年に採択・1979年に改定されたJLA(日本図書館協会)による宣言です。

この宣言の中に、このような文章があります。

第3 図書館は利用者の秘密を守る

 読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない。ただし、憲法第35条にもとづく令状を確認した場合は例外とする。
  図書館は、読書記録以外の図書館の利用事実に関しても、利用者のプライバシーを侵さない。 
 利用者の読書事実、利用事実は、図書館が業務上知り得た秘密であって、図書館活動に従事するすべての人びとは、この秘密を守らなければならない。

日本図書館協会図書館の自由に関する宣言」より

図書館の自由に関する宣言

興味のある方はぜひ上記のリンクから全文を見てみてくださいね。

こうして書くと少し難しく感じるかもしれませんが、要は「誰がいつ来たか、何を読んだかは一般人だろうが職員だろうが秘密だよ」ということです。

もちろん図書館員は貸出や返却の手続き、延滞の督促を行う時などにこれらの情報に触れることがありますが、あくまでも仕事の上で取り扱う情報なので業務上必要な範囲でしか見ませんし、記憶していたとしても興味関心などから誰かに口外してはいけません。

以前、村上春樹氏の過去の貸出履歴が他者によって公開され物議を醸しましたね。この時も「図書館の自由に関する宣言」に絡めて皆さんが持論を展開されました。

※「図書館の自由に関する宣言」は民間団体の定めた宣言・ガイドラインです。そのため、この宣言自体に法的拘束力はないのですが、図書館がよりよい図書館であるために議論する際には欠くことの出来ない考え方の基盤となっています。

 

耳をすませば」の描写で何が問題なのか?

前置きが長くなってしまいましたね。ここから本題に入ります。

 「耳をすませば」で利用されていた貸出カードは、本の後ろにしまってあって利用者が記名する形式でしたね。これを「ニューアーク方式」と呼ぶのですが、この形式の貸出カードの問題点に利用者のプライバシーがダダ漏れという点が挙げられます。雫や聖司が読んだ本は、貸出カードを見ればすぐに分かってしまいますね。

実はこの形式、先に挙げたようにプライバシー保護の観点から映画公開時の1995年、公共図書館においては既に使用されていなかったんです。

(学校図書館では各校でまちまちです。教育機関として児童・生徒への読書指導や単純に資料管理の観点から長くニューアーク方式を用いた学校もありますが、現在は学校図書館もほとんどこちらを使用していないのではないでしょうか?わたしが小学生の頃は個人所有の貸出カードに書名を記入し、代本板として個人の貸出ファイルを書架に置いていました。)

けれど、映画の大ヒットで公共図書館のプライバシー保護に関する現状が間違って伝わってしまった。これに対して日本図書館協会は当時、抗議を行っています。

(現在はさらにプライバシー保護が徹底され、利用者の貸出履歴は直近のもの以外図書館員にも分からないようになっています。昔借りた〇〇の本何て言ったっけ!とか、聞かれても貸出履歴からは分からないし答えられないのです。もちろん、こんな内容なんだけど……といった事を話せばその情報から本を探すお手伝いはして下さいますよ。)

話を戻します。この件、制作陣に悪意があってこういった描写がされたわけでないことは分かっているんです。けれど、こうして「貸出カードから個人情報を得る」ということをまねっこされてしまってはダメなんです。

 

好きな人の読んだ本、興味のあるジャンル。めちゃくちゃ気になりますよね(笑)その気持ちはよーく分かります。でも、自分の借りた本が知らないところで誰かにバレてるのってちょっと気持ち悪くないですか?

それに、図書館で借りる本って小説だけじゃないですよね。例えば病気とか、心の問題とか、家庭の事情とか。これに限らず、すごくデリケートな部分に関わる本ってたくさんあります。それを読んでたこと、知って欲しくない人に知られたらイヤじゃないですか?

例えばわたしがある日突然痔になって、医者にかかってもなかなか治らない。どうしたものかと思って図書館で「痔の治し方」みたいな本を読み漁っていたこと、いつの間にかどこからかバレていて、言いふらされてたらイヤです。これでも女性なので、なかなか恥ずかしくて外に出られなくなるかもしれない!(笑)

悪いという自覚なく行われることって怖いんです。極端な例ですが、ストーカーが誰かを追っかけ回しておいて「ちゃんと帰れるか心配だから見守ってあげてただけ」とか言うような。やった本人はダメだって思ってないんです。

わたしも何気な〜くTwitterのトレンド「図書カード」から関連ツイートを見ましたが、「図書委員だから好きな子の借りた本探ってる(笑)」みたいなツイートをいくつか見て背筋が寒くなる思いでした。あっ、まだまだこういうのがダメなことって意識は浸透してないんだなあ。って。

 

今回思ったこと

改めて「耳をすませば」を観たことで、自分の中でもプライバシー保護等の問題を考え直すきっかけになりました。

あれこれ言いましたが、わたしは創作は創作と割り切っているので「耳をすませば」という作品が悪だとは思いませんし大好きです。というか、これに限らずジブリの作品がとっても好きです。

子供の頃観た、きらきらして夢に溢れた素敵なお話。このお話が、大人になった今違った角度から自分に影響を与えてくれたことをとても嬉しく思います。そして、自分が学んだことはきちんと自分の中に残っていたんだって実感させてくれました。毎日毎日夜のコマだからしんどかったけど頑張ってよかった〜!って思います(笑)

純粋にお話を楽しんでいる方からしたら、二人の出会いにごちゃごちゃ言って感動に水をさすなよ!って思われるかもしれません。この問題をご存知の方からしても、覚えたばっかりの知識であれこれ言うな!もっと触れなきゃいけない部分があるだろ、って思われるかもしれません。

でも、わたしはこれが記事を見てくださった方にとって何か考えたり、この件に気を留めるきっかけになればいいなあと思っています。もし誰かの貸出履歴をこっそり見ている人が周囲にいらしたら、こっそりダメよって教えてあげて欲しいなとも思います。

わたしはいつも自分の考えが絶対に正しいと思えません。言葉足らずだし、自分の意図したところを誤解なく伝えることもむずかしいなあと常々感じます。

みんな考え方はちがうのだし、何をもって正解とするか?正解があるのか?たくさん悩みます。皆さん思うところはあると思います。だからこそ、いろんな方の意見を知りたいです。

 

最後に。わたしがこの学問に触れるきっかけを作ってくれた母と、知識を授けてくださった先生方に感謝の気持ちを示したいと思います。